三文芝居

「また受け取ったのか」
「私、断ったのよ」
 苦笑を隠さないジョヴァンニを前に、は豪華な装飾を施された柔らかな椅子に深く座り込んだ。その胸元には、宝石の散りばめられた、これまた豪華なネックレス。ジョヴァンニの記憶には無い、新しいものだ。
「貴女は断ったと言うが、実物がそこにあるのでは…説得力に欠けるのは仕方ない」
「だって、どうしてもって言うんだもの」
「しかしよ、身に付ける必要は無いのでは?」
 ジョヴァンニの人差し指が、の胸元を飾るネックレスを引っ掛ける。
「でもね、ジョヴァンニ。貰ったものは大事にしなさいって、父からよく言われてるの」
 拗ねるようにそう言うを見て、堪え切れずにジョヴァンニが声を立てて笑い出した。ジョヴァンニの指から離れたネックレスも、一緒に笑ったように揺れる。
「どうして笑うの?」
「いや、何でもないさ」
「答えになってないわ」
 不満げなはどこか幼く見えて、ジョヴァンニは思わず微笑んだ。それから、これ以上の機嫌を損ねないよう、答えを与えてやる。
「貴族というのは、可笑しな生き物だと思ってな」
「どうして?」
「宝石などよりも、飛び散る血の方がよほど美しいというのに」
「貴方らしいわ!最高に悪趣味!」
 今度はがはじけたように笑った。
「良い趣味だと思うんだがなぁ」
「そうかしら…でも、そうねジョヴァンニ。貴族が面白いというのには賛成よ」
「何故?」
「だってあの人達、宝石で私の心を手に入れようとしているのよ」
「彼ららしいな」
「彼ららしいでしょう」
「わかっていないのだよ。宝石などなくとも、私のが美しいことを」
「いくら宝石を貰おうとも私の心は、いつもここに」
 の指先が、ジョヴァンニの胸元をなぞる。ジョヴァンニはそのしなやかな手を取り、そのままキスをする。
「悪い女だ、よ」
「悪い男ね、ジョヴァンニ」 
 お互い艶かしくも挑発的な視線を送り合う。そこには、どこか共犯者めいた香りが充満していた。

>> 戻る <<