「どうせね!私なんか可愛くないですよ!」 居酒屋の喧騒の中、の声が負けじと響く。普段から声の大きい原田にも負けない声量である。大したものだ、と永倉はのんびり思う。 「酔ってるでしょ、」 「酔ってなんかいませんー」 「…そうだねー酔ってないねー」 酔っ払いは受け流すに限る。まぁ量自体はそこまで飲んでいないし、これ以上杯を進ませなければ心配もいらないだろう。とりあえずお冷やでも頼んでおくか、と永倉が店員を呼びかけたその時。 「いいですよねー新八さんは!ちっちゃくて子狸みたいで可愛くて!」 ぴたりと永倉の動きが止まる。 「…、それ俺の事すっげーけなしてるって気付いてる?」 悪気は全く無いのだろう、の賞賛という名の貶し文句はさらに続く。 「私も新八さんみたいに可愛くなりたい…!」 「いや、だからね?」 力強く訴えられても困るんだけど、と永倉が軽く頭痛を覚え始めた時、全ての元凶が姿を現した。 「ちゃん!」 「平助さん!?」 勢い良く店に駆け込んできた男、藤堂平助その人である。 そもそもが永倉に相談があると飲みに誘ったのだが、その相談というのが彼女の恋人である藤堂平助についてであった。相談の内容というのが、蓋を開けてみるとなんてことはない。可愛いものに目が無い藤堂、その恋人である自分に可愛らしさが足りない云々…という、傍から見れば惚気にしか見えないものだったのだが。 「話は聞かせてもらったよ、ちゃん」 「あー、平助。念の為聞くけど、お前いつから聞いてたの?」 「の、”私なんか可愛くないですよ!”から!」 「やだ恥ずかしい…!」 「そんなに恥ずかしがること無いんだよ、ちゃん…!」 「平助、お前エロ親父みたいな台詞になってるから!とりあえず二人共落ち着け!」 それにしても聞いていたのならば、早く会話に入ってくればいいものを。あらかじめ藤堂には永倉から場所を伝えていたのだが、盗み聞きとは人が悪い。 呆れてため息を吐く永倉を置いて、藤堂はの手を取ると熱く語り出した。 「ちゃん。確かに新八っつぁんはちっちゃくて子狸みたいで可愛いよ」 「平助、お前も来て早々人をけなすなっつーの」 「でもね、ちゃん。俺は、女の子としての君を、すごく、可愛いと思ってる」 ゆっくりと一つ一つの言葉を搾り出す藤堂を前に、の瞳がじわりと滲む。 「平助さん…私、新八さんみたくちっちゃくて子狸みたいに可愛くないけど…それでもいいの?」 「そうさ、新八っつぁんみたくちっちゃくて子狸みたいに可愛くなくていいんだ。ちゃん!」 「いや、だから、あんたらさぁ」 絆を確かめ合う男女、その中で無駄に連呼される貶し文句、そして永倉の頭痛。 「平助さん…!」 「ちゃん…!」 最終的にひしと抱き合う藤堂とを尻目に、永倉の言葉が空しく響く。 「もうやだこのバカップル」 |