――したら、ラベンダーの味がする? 「何だって?」 思わず聞き返す。こいつは今なんて言った。俺の聞き間違いだろうか。あぁそうに違いない。最近耳が遠くて困る、まだ十八だってのに。 「いや、だからね」 幼子の聞かすように、はゆっくりと言葉を放つ。 皆守とキスしたらラベンダーの味がする? 「お前、キスって、」 「何だよ皆守、キスも知らないのか?接吻だよ、接吻」 俺ってば博識、とは笑ってみせる。こういう屈託の無い笑顔を稀に見せるものだから、こいつは余計質が悪いのだ。いや、そんな事よりも。 「それくらい知ってる。俺が知らないのはラベンダーの味がするかどうか、だ。そんなもん俺がわかると思ってんのか」 「皆守がわかってるかって?そんなの知ってる訳無いだろう。知ってたらこんな質問してない」 そりゃあそうだ。そうだとも。確かにそれは正論だ。 が、しかし。 「真昼間からそんな質問してくれるな…」 ため息を出さずにはいられない。こいつはどうして俺に無駄な二酸化炭素を吐かせるのか。地球温暖化に加担させようとしているのか、そうなのかまさか。 と、 「てい」 間の抜けたの掛け声。 顔が近づいた、と思った瞬間、唇に柔らかな感触があった。一瞬頭が真っ白になったが、持ち前の理性で俺はの肩をぐいと押し返す。 「馬鹿!何やってんだ!」 「何って、キス」 「お前は…誰にでもこんなことすんのか」 「する訳無いだろう?」 「こういう事はだなぁ」 「俺は皆守のことが好き。皆守も俺のことを好きって言ってくれた。問題あるのか?」 そこに問題は無い。問題が無いどころか大歓迎だ。 が、しかし。 「…お前が今着てる制服に問題があるんだよ」 俺と同じ学ラン姿。目の前にいるのは正真正銘の女だが、対外的には男という事になっている。だから、面倒臭い。 「脱げばいいってか!この変態!」 「違えよ馬鹿!」 容赦なく蹴りを入れると、はぎゃー!と女らしさの欠片もない悲鳴を上げた。 「…で、どうだったんだ?」 「え?」 「ラベンダーの味はしたのか」 「よくわかんなかった」 「お前なぁ…」 散々人を騒がせておいて、よくもまぁあっさりと言えたものだ。 「もう1回試してみよう」 「おい、待てって」 「てい」 間の抜けたの掛け声。顔が近づいてくる。さっきと同じ動きだ。いくらの運動能力が尋常でなくても、二回目は流石に避けられる。そうだ、避けられる!避けろ!避けろ俺! そして、唇の感触。 ………頼むから、俺の理性よ働いてくれ! |