痛い。気持ち悪い。 口の中がじゃりじゃりとした。が唾を吐くと、赤黒さを伴った砂の塊りがべちゃりと落ちた。嗚呼、最悪だ。は不甲斐無い自分にため息を吐く。 「汚いな」 嘲るような声。が声の睨みつけると男はにいと口の端を吊り上げた。それは楽しそうな、けれどにとっては嫌な笑顔だった。 そもそもこうなったのは貴方の所為ではないか。は心中で悪態をつくが、そんなものは相手に届くはずが無い。届いた所でレッドという男は今と同じように笑っているだけだろう。いや、むしろ喜びかねないものだから性質が悪い。 「、そう怖い顔をするな!怒らせてしまったか?」 「怒っている訳ではありませんよ」 悔しいだけです、という言葉は心の中で付け足しておくに留めた。 「それは良かった。謝らねばならんかと思ってしまったよ」 謝る気など毛頭無い癖に。 いけしゃあしゃあと言ってのけるレッドには何を言っても無駄だろう。そう判断してはその場をやり過ごす。 「で、何で私が顔面を地面に叩きつけられて口に砂が入る羽目に?」 「理由を聞くのか?」 「出会い頭にやられては理由だって聞きたくなります…思い当たる節も無いのでね」 「そういえばそうだな。私としたことが、挨拶もしていなかったではないか」 ごほん、とわざとらしい咳払いの後にレッドが片手を挙げてみせる。 「やぁ、!息災か?」 「…こんにちは、レッドさん。おかげさまで口の中が血と砂で酷い事になってます」 が慇懃に言ってやると、レッドが楽しそうにくつくつと笑う。 「味はどうだ?」 「最悪です」 「そいつは最高だな!」 得意の高笑いを響かせたかと思うと、レッドの手がの顎を掴んでいた。くいと持ち上げるような形は、傍から見れば少女漫画のロマンチックなシーンに見えなくもない。が、そこに至るまでの速さ、そしてその手に込められている力には少女漫画的な甘さは存在しなかった。 「本当に最高だ…なぁ、?」 苦痛に歪むの顔を覗き込みながら、レッドは低く囁く。 「…こういうの、最悪って言うんですよ」 が搾り出すように声を出すと、レッドは満足そうに笑った。 「そうだな。最悪で、最高だ!」 |