狂気故の純粋さ、なのだろうか。 「私、剣八さんの戦い方、嫌いです」 虚を斬り終えた剣八の背中に、は労いの言葉もかけずにそう告げた。 ごつごつとしたその手で斬魄刀を懐に納めると、更木は顔だけをこちらに向けた。 にたり、と笑う。 「構わねぇよ」 好かれようと思って戦ってるわけじゃねぇんだからよ、と。 しかしは納得がいかない風で、苦々しげに呟いた。 「…私には上の考えがわかりません。何故こんな小物に貴方を当てるんです」 この虚に対して更木は強すぎた。 否、更木に対して虚が弱すぎたのだ。 更木は頷きながら、こちらへと全身を向けた。 ぎろりと眼球が動く。この人は視線で人を殺せるのではないか、と妙な錯覚に襲われる。 「全く同意見だ」 だがな、と更木は続ける。 「戦いを与えてくれるなら、俺はそれで文句はねぇ」 実に。実に楽しそうな表情をする。 嫌だ、とは思った。 「剣八さんの戦い方、嫌いです」 もう一度同じ台詞。 嫌いだった。 加減をしてまで戦いを楽しもうとする、その戦い方が。 望みを持ち、それでも戦う虚を哀れに思った。 何故早く楽にしてやらないのか、と何度も思った。 そして何より、この男に惹かれる自分が一番嫌いだった。 あまりに滑稽すぎる。 そんな心中を知ってか知らずか、やはり更木は笑う。 「俺ほど戦いを愛している奴はそうはいねぇ」 そうだろう。そうだろうとも。心底この男は戦いを愛している。 「お前にはわからねぇだろうよ、この飢えと渇きは」 その吊り上げた口から低音のくっくっくっと言う笑いが零れ落ちる。 それが蔑みなのか、ただの純粋なる笑いなのかはにはわからなかった。 わかるはずがないのだ。 その強さも純粋さも自分は持ち合わせてなどいないのだから。 悔しかった。 「戯言ですよ」 向けられた背中に向かって、口中でそう呟く。 それを嘲笑うかの如く響いた鈴の音が、耳に残って離れなかった。 |