独りは嫌だと空が泣く

「リンは…真面目な子だったから」
「…そうですね」
「真面目で、かわいそうな子」
 だから、死んでしまった。
 ぽつり、とが呟く。雨音が煩かったけれど、シンの耳にはの言葉が嫌という程深く入り込んできた。
 リン。双子の片割れ。もう永遠に失われてしまったもの。
 は窓際に座ったまま外を見る。その向こうにリンがいるはずもないのに。
 しばらく部屋には雨音だけが響いていたが、の声がそれを破る。
「シン」
「はい」
「貴方も、そう」
「…そんな事は、」
「無いと言い切れる?」
 が首を傾げて静かに笑ってみせた。柔らかくて、優しい笑顔。ずるい、とシンは思う。そんな笑顔をされても出てくる言葉など、自分は持っていない。
「でも、、違う。違いますよ…」
「えぇ、そうね。貴方は掟だけに縛られる人じゃない」
 だけど、とは言う。
「貴方はリンとすごく似てるから」
 自分の信じた事にはまっすぐな所がそっくりだ、と。
「だから、私、心配なの」
「え」
「貴方も私を置いていってしまうんじゃないかって」
「そんな事は、」
「無いと言い切れる?」
 は首を傾げて静かに笑ってみせた。さっきと同じように柔らかくて、優しい笑顔。だけど、今はどこか寂しげだった。
 ずるい、ずるい、ずるい。
 シンは思わず泣きそうになる。どうしてこの人はそんな事を言うのだろう。こんな風に笑うのだろう。
 本当に、ずるい。
「リンも、シンも、きっと幸せよ。自分の信じたものの為に死ねるんだから…でも、私は」
 それ以上、聞きたくない。
 シンはの唇を自分自身の唇で塞ぐ。一瞬の身体が強張ったが、すぐに力を抜いたのがわかった。
 シンはゆっくりと唇を離すと、縋る様にその細い身体を抱きしめた。
「シン」
「…はい」
「私が自分の幸せを祈っていても、怒らないでね」
「それは、勿論」
 シンの腕の中からの啜り泣きが漏れる。雨音は煩い癖に、こういう音を消してはくれないのだ。
 シンはそのまま泣きたくなる気持ちを抑えるように、抱きしめる腕に力を込めた。

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