「愛している」
低い声が私の耳に響く。けれど何より私の身体の奥深くまで響いてくるものは、この人の持つ鮮烈な色だった。 赤。 赤という色は、なんて情熱的で扇情的な色なんだろう。 私の肌を這い回る赤い舌は、まるで美しい蛇のよう(私は本物の蛇を見た事がないので、これはあくまでも主観的なイメージ)。私がその舌にうっとりと酔いしれていると、舌の持ち主は突然私の腕に咬みついた。大人しく享受されるがままになっている私の様子が気に入らなかったのだろう。この人は短気すぎるし、すぐに暴力に訴える所があるのだ。まるで子供!それは言葉にならず、代わりに私の口からは痛みに対する呻き声だけが零れ落ちた。その声を「美しい声だな」とこの人は言う。こちらは痛みでそれどころではないというのに。 この変態が! 私は心の奥底から叫びたくなる。笑いながらそう叫ぶ自分の姿を想像してみた。その表情はすごく楽しそうで、清清しくて、愛情に満ち溢れている。叫んで、そして、愛する人の手によって綺麗な赤に染まるのだ。 だから、私は叫ばない。 「愛しているぞ、」 そう囁く声を、まだ聞いていたいから。 |