秘密を教えてあげようか。 悪戯めいた瞳をきらきらとさせながら、はそう囁いた。 「秘密だと?」 ヴィラルが片方の眉を上げて問い返すと、は人差し指を口の前に立てた。 「声が大きいよ!秘密なんだから」 声を潜めながら、は辺りの様子を伺った。幸いにも人影は無い。はほうっと息を吐くが、ヴィラルの頭の中には疑問符が浮かぶばかりだ。 「聞きたい?」 楽しげに聞いてくるに、ヴィラルはむすりと黙り込む。の言う秘密が気にならない訳ではないが、ヴィラルにしてみればに優位に立たれている今の状況が気に入らないのだ。 「聞きたい?」 中々頷かないヴィラルを前に、の言葉にじれったさが滲み始める。 「貴様がどうしても、と言うならな」 ヴィラルがつんと言い放つと、今度はが口を噤んだ。ヴィラルは俯いてしまったのつむじを見ながら、嗚呼またやってしまったと口をヘの字に結んだ。それからため息を一つ。 「…悪かった。頼むから、教えてくれ」 ヴィラルが言葉を搾り出すと、が恐る恐る視線を上げた。見ればその瞳はゆらゆらと揺れている。この泣き虫め、とヴィラルは口には出さずに、を促すように頷いた。 気を取り直して、とまでは言えないが、それでもは安心を覚えたらしい。は一呼吸おいてから、どことなく恥ずかしげに声を出した。 「あのね、私は、多分、」 が息を吸う。 「私は多分、ヴィラルのことを愛しているよ」 瞬間、ヴィラルの思考が止まった。今、こいつは、何と言った? あいしているよ。 はそう囁いたかと思うと、一瞬にしてその身を翻して走り去ってしまった。こういう時にだけがみせる素早さを、ヴィラルは常々戦闘で使えば良いものを、と不満に思っている。しかし今はそれよりも気になることがあった。 さっき、あいつは、何と言った? 呆然との去った方向を見つめるヴィラルに、びゅうと風が一吹き。けれどその風にの言葉は吹き消されることなく、ヴィラルの頭の中でうるさいくらいに木霊するのだった。 |