おもてうら

「どうしたんだい、。何をそんなに泣くことがある?」
「セルバンテスさん…」
「そんなに泣いていては可愛い顔が台無しだ」
 暖かな手がふわりとの顔を包み込む。はこの手が大好きだった。自分を愛してくれる、優しい手。けれど震えは止まらないどころか増すばかり。
「ほら、笑ってごらん」
「…セルバンテスさん、どうしてですか?」
 どうして殺したの、とは問う。非難を思わせる言葉の響きに、ぴたりとセルバンテスの動きが止まった。
…そんなことを聞くものではないよ」
 セルバンテスの瞳に微か浮かんだ失望の色。それを悟ったは、緊張と恐れから身体に痺れを覚える。
「ごめんなさい、だけど、私、」
「あぁ、すまない。怯えさせてしまったようだね」
 思わず早口になるを安心させるように、セルバンテスは笑顔を見せた。
。私はね、君の事をとても愛しく思っているんだよ?それは変わらない。けれどもね、」
 邪魔者は殺さなくては!
「わかるだろう?」
 そう言っての瞳を覗き込んでくるセルバンテスは優しくて、けれど有無を言わせない何かを持っていた。はその何かが恐ろしかったので、ただ頷き返すことしかできなかった。
「さぁ、こんなわかりきったことを聞くのは今回だけにしてくれたまえよ」
 わかったかね?言い聞かせるようにそう付け足してから、セルバンテスは努めて明るい声を出した。
「さて、そろそろ帰ろうか!風邪をひいてしまってはいけないからね。家に着いたらすぐに風呂に入るといい…ついでにそれも洗い落とさなければね」
 セルバンテスの視線の先には、の頬にべったりとついた赤黒い血。先程までセルバンテスの手が包んでいた箇所だ。
 涙がそれを洗い流してくれはしないことを知っていたは、血に塗れた優しい手に縋ることしかできなかった。

>> 戻る <<