機関車

「機関車に似てる」
「はぁ?」
「いや、別にね、機関車トーマスのヘンリーに似てるって訳じゃなくて」
「何だよヘンリーって」
「ヘンリー知らない?ヘンリーっていうのは」
「ヘンリーはいいからさっきの話を続けろ」
 の説明が長くなりそうだと読んだ比嘉は、嬉々として説明を続けようとするの額をぴしりと指で打った。打たれた箇所をさすりながら、は言い難そうに言葉を吐き出す。
「裕太はね、機関車に似てる」
「そうかぁ?」
 いまいちわからん、という表情で比嘉は煙草の煙を吐く。ぷかぁと浮かんだ煙を眼で追いながら、は言葉を続ける。
「燃料を入れる所があるでしょう。薪をどんどん入れて、火がごうごう燃えて。裕太はね、いっつもそんな感じ」
 が思い出すのは、威圧的な黒い炎のような存在が迫ってくる姿と音。昔テレビで見た映像。白黒の中で、一際目立つその黒。はそれをずっと忘れられずにいて、そして今目の前にいる少年にそれを感じている。
「私は追いつけないんだ」
 何処か諦めたように、はぽつりと呟いた。浮かんでいた煙は既に消えていて、の目は遠くの雲だけを見つめていた。
「それなら俺がお前を乗せてやるよ」
 その機関車に追いつけないならば乗せてやる、と。
「簡単じゃねえか」
 ぶっきらぼうな言葉ではあったが、にはそれで十分だった。たまらなくなってしまってぎゅうとその身体に抱きつくと、比嘉は少し照れたように頭をかいた。

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