恋するあいつは人でなし

 目にするだけでも、苛々して仕方がなかった。
 あいつは偽善者だ、とレッドは常々思っていた。何ができるだけ犠牲者は少なく、だ。大した力も持っていない癖にそうやって必死に訴えるを、レッドはいつも滅茶苦茶にしてやりたいと思っていた。
 ところが、だ。
 いざ戦いの場に出てみると、は案の定泣いていた。泣いている癖に、容赦無く敵を斬りつけていくのだ。レッドの予想に反して、その太刀筋には迷いなど微塵も無く、彼女が通った後には死体の山がこんもり出来ていた。
 レッドは知っていた。はその山を振り返りもしなかった。代わりに、これから先どうすれば犠牲者を減らせるだろう、とその小さな頭で思い悩んでいた。
 嗚呼、なんという人でなしだろう!
 レッドはそんなが面白くて可笑しくて仕方がなかったので、周りの目も気にせず声を立てて思いっきり笑った。それから、名を呼んだ。そこには既に憎しみはない。むしろ愛情すらこもっていた。
!」
 不謹慎なくらい楽しそうな声。呼ばれたが何事か、と眉根を寄せて振り返る。瞬間、その唇はレッドの唇によって塞がれていた。  
驚きで目を見開くの様子が、レッドには楽しくてたまらない。おお、頬が赤くなった。羞恥、それから怒りというやつか?さて、いよいよ振り払ってくるな。短時間の中でも、レッドはじっくりと観察を楽しんでいた。
 その一方で、には余裕が無い。行き場を失った拳を握りしめながら(が振り払おうとした瞬間、レッドが後ろに跳び退ったのだ)は叫んだ。
「い、いきなり何するんですか!」
「おやおや、。もしやファーストキスだったとでも言うんじゃないだろうな?」
 の僅かな表情の変化を見逃すレッドではない。図星か、とにやりと笑う。
「それでは詫びなければな。そうだ、今度デートにでも誘わせてもらおう」
「結構です!」
「楽しみにしているぞ」
 断りの言葉も聞かず、レッドはうきうきと楽しそうに、今度はの頬にキスをした。の反撃は勿論届かない。軽やかに死体の山を飛び越えていくレッドの背中に、の叫び声が飛んでくる。
「このっ…人でなし!」
 人でなしと人でなし。お似合いのカップルではないか!そう考えるとレッドの足取りはますます軽くなるのだった。

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