男がその部屋に足を踏み入れた途端、先程まで転寝をしていた猫が毛を逆立てて鳴いた。そのコバルトブルーの瞳には、黒い鎧に身を包んだ男が映し出されていた。
「また人を斬ってきましたね」
 猫を抱き上げながら、が呆れたようにため息を吐いた。
「暗殺者共が遊んでくれとうるさいのさ」
 男は困ったように肩をすくめてみせた。何がうるさいものか。はこのジョヴァンニという男が暗殺者共と遊ぶことを心底楽しんでいることを知っていた。
「この子が怯えるでしょう」
 先程と比べて落ち着いたとはいえ、コバルトブルーの瞳はジョヴァンニの姿を捕らえて離さずにいる。
「申し訳無いとは思っているんだがね…もてる男というのは辛い」
「はいはい」
 は演技がかったジョヴァンニの台詞を聞き流しながら、なだめるように猫を撫でてやる。撫でられた猫は、気持ち良さそうににゃあと鳴いた。放っておかれたジョヴァンニは、の腕の中の猫に羨ましそうな視線を送る。
「冷たいねぇ」
「そんな事ありませんよ」
「ならば、その猫を可愛がるように俺のことも大事にして欲しいものだ」
 珍しくすねたような言い方をするジョヴァンニを見て、思わずは笑ってしまう。
「随分大きい猫だこと」
「懐けば可愛いものだろう?」
「そうねぇ」
 くすくすと笑うをジョヴァンニが静かに抱き寄せると、間に挟まれた猫は窮屈そうに身をよじって、の腕から抜け出した。

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