誰か泣いている。 誰だろうと思って目を開けると、そこには目を赤く腫らしたの姿があった。 「何故、泣いている」 かすれた声で問いかけると、は大きく目を開いた。 「ヴィラル様…ヴィラル様が、生きてて、良かった」 は鼻をぐしゅぐしゅ言わせながら、一生懸命言葉を紡いだ。そんながヴィラルには愛しく思えたが、それ以上に許せない事実があった。 「何が良いものか…チミルフ様は」 そこまで言って、言葉に詰まった。続きを口にするのを身体が拒んだ。チミルフ様は殺された。そう口に出したら何か大切なものが崩れてしまうような、そんな気がした。 「…何故、私ではなかったんだろうな」 「そんなことを言っては駄目です」 自嘲めいた言葉をたしなめるを、ヴィラルはぎろりと睨んだ。 「私に命令をする気か」 「嫌なんです!」 ヴィラルの低い声に被せるようには叫んだ。普段は温厚ならしからぬそれに、ヴィラルは目を大きくした。一方、自身も驚いたらしい。動揺したように視線をさ迷わせてから、俯いて小さくごめんなさいと呟いた。その時、ぽたりと一滴の涙が零れ落ちたのをヴィラルは見逃さなかった。 「」 手を伸ばしての頬に触れる。涙をぬぐってやろうとしたのだが、予想外の頬の柔らかさに、触れた手は吸い付いたように動かなった。するとが目を閉じて、自身の手をヴィラルの大きな手に重ねた。じわりと広がる心地よい温もり。今だけはこの温もりに甘えてもいいのかもしれない。 何だかこちらが泣いてしまいそうだと思いながら、ヴィラルはの身体を静かに抱き寄せた。 |