暗闇だった。
 目をきつく閉じて、もう一度開けたら違う世界が待っているかもしれない。そう思いながら、ゆっくりと目を開ける。けれどそこにあるのは物言わぬ漆黒だけ。
 もう一度目を閉じる。と、瞼の裏には金髪の獣人の姿があった。
 何故だろうと思うよりも、愛しくて、寂しくて、たまらなかった。



 前から思っていたことだった。
「私は何人目だったのかな」
 がそう呟くと、ヴィラルは目を大きく見開いた。螺旋王が今までにも何人も姫を抱えていたことを知っているヴィラルは、質問の意味を素早く理解していた。けれど、
「…様、それは、」
 言い淀み、それから言葉を続けられなくなったヴィラルはそのまま俯いてしまった。それを見て、そうか私はやはり可哀想な子なのか、とはその事実を思い知らされる。自分自身が泣くかもしれないと覚悟していたけれど、代わりに出てきたのは苦笑だけだった。
「私はお父様を愛しているけれど、お父様は私のことなんか見ていなかった」
「…私には愛という概念がよくわかりません。しかし、螺旋王は貴方を大切になさっている。それだけで十分ではありませんか?」
 ヴィラルにとってそれは真実だった。同時に、ヴィラルにとってこの言葉はを元気付ける以外の何物でも無かった。

 でもね、違う。違うのヴィラル。お父様が大切にしていたのは、見ていたのは私なんかじゃなくて―――。

 そうやって泣き喚けたらもっと楽になれたのだろうか。涙の一粒も出てこない自分自身をほんの少しだけ恨みながら、は静かに首を振った。それから、笑った。嘘なんて一つも無い笑顔だった。
「それでもヴィラルは私自身を見てくれてる。だから、私は幸せなのかもしれない」

 愛して欲しいなんて言えなかったけれど。
 それでも貴方は私を見てくれた。
 私には、それで十分。



 様。
 名を呼ばれた気がして、はっと目を開ける。けれど、そこにはやはり闇しか広がっていなかった。

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