愛しています、とその口は言った。
 この嘘つきめ、とその口に思った。
 いつも見ていて苛々する。本当はそんな事思っていない癖に。そうやって綺麗な言葉を並べ立てて、笑顔を浮かべてみせて。
 本当に、苛々する。



「パラケルススさんは、嘘つきだ」
 容赦無く睨みつけてくるを、パラケルススは怖い怖いと笑った。
「どうして笑うの」
 馬鹿にされた気がしたのだろう。は眉間に更に深い皺を刻み込む。それを見たパラケルススは困ったように笑った。
「嘘つきはさんの方でしょうに」
「嘘つき」
 間髪入れずにが言い放つ。まるで刃だ、とパラケルススは笑う。
「アタシは嘘ついた事なんて無いですよ」
「好きだなんて、嘘でしょう」
「嘘なんかじゃあない。アタシはさんの事、好きでさぁ」
「からかわれるの、嫌いなんです」
「おやおや!まぁ、確かにからかうのも好きですけどね。でもそれはさんが可愛いもんだから。ついつい、ね!」
 パラケルススが楽しそうに言う。それに比例しての苛立ちは大きくなるばかり。
「でもね、さん。アタシは本気なんですよ」
「嘘つき」
「だーかーら、嘘つきはさんの方ですってば」
 さっきも言ったんだけどなぁ、とパラケルススは困ったように笑う。
 は、笑わない。
「…さっきから何なんです?私が何をしたって言うんです?」
「言ってた通りのことですよ」
「私は嘘なんか!」
「本当は愛してない癖に」
 声を荒げたクレアに対して、恐ろしいくらい静かな声でパラケルススは言葉を発した。一瞬にしてパラケルススの笑顔も、の苛立ちも、そこから姿を消していた。
「知ってます?無理してる姿って、見てる方も結構きついんですよ」
「どうして…」
「言ったでしょう。貴方のことが、本気で好きなんです」
 だからもう嘘なんてつかないで欲しいんですよ。そう言ってパラケルススは笑った。その笑顔を見ながら、こんなに悲しそうに笑う人を見るのは初めてだとは思った。

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