戴宋さんと楊志さんが結婚することになった。 戴宋さんの口からそれを告げられた私は、満面の笑みで祝福の言葉を贈った。半ば反射的なものだったかもしれない。 「おめでとう!」 その時、私の隣には鉄牛がいた。彼はでっかい身体を大きく揺らして喜んでいた。私も鉄牛も二人のことが大好きだったから、少し寂しい気持ちがあったとしても、これはとても喜ばしいことだった。 だけど。 私の頭の中はぐるぐるして、胸がどきどきして(これは嫌な感じのするどきどきだ!)、だから私はありもしない用事をでっち上げてその場から逃げ出した。 私には秘密基地がある。別にそれは秘密でも基地でも無いのだけれど、私は考え事がある時だとか落ち込んだ時だとか、よくそこへ行く。梁山泊の隅の方に申し訳程度に建っている小屋で、普段は使い古した武器なんかを仕舞うのに使われている。滅多に人なんか来ないので、私にとってそこはサンクチュアリみたいなものだった。 戴宋さんの言葉を頭の中で反芻する。すればするほど、頭のぐるぐるも胸のどきどきも酷くなる。気付けば涙が勝手にぽろぽろと零れていた。 突然、がらりと戸が開いた。 一瞬、戴宋さんかなと思う。私が落ち込むとよく戴宋さんはここへ来て、多くは無いけれど暖かい言葉をかけてくれたから。 けれど、そこに映った影は戴宋さんにしては大きすぎた。 「よう」 そうだ、戴宋さんが来るはずなんてないのだ。あの人はきっと全部わかっている。鉄牛のちょっと困ったような顔を見ながら、私はぼんやりとそう思った。 「お前、ほんとに泣き虫だよな」 「ここは泣いてもいい場所だから」 「そうだな」 しばらくお互い黙っていると、鉄牛がゆっくりと口を開いた。 「なぁ、。アニキはよ、ずっと俺達のアニキだ。それだけは変わらねぇよ」 だから泣くことなんてないだろ、と鉄牛は言う。鉄牛にとっても私にとっても、戴宋さんは昔から兄のような存在で。私と鉄牛は戴宋さんが大好きで。 だから私はそうだね、と頷いた。 でもね、鉄牛は知らないだろうけれど、私はあの人に恋をしていたんだ。 |