悪趣味なサングラスだ。は常々そう思っているのだが、セルバンテス自身はそれがいたく気に入っているらしい。 「悪趣味だよね、それ」 「は酷いことを言う」 言いながらも、そのサングラスの奥の瞳が笑っていることをは知っている。やっぱり悪趣味だ、とは思う。はサングラスの所為ではっきりと見えないその瞳に苛立ちを覚え、かつ恋焦がれた。 の手がそのサングラスをクフィーヤの上に押し上げると、顔がよく見えた。こんな変てこな格好をしていなければもっと女の人に騒がれるだろうに、とはしみじみと思う。刻み込まれた皺の一つ一つは、セルバンテスがよりも長く生きてきたことを示すものだったけれど、それすらもの胸を高鳴らせるものでしかなかった。つまり、心底惚れていた。 そんなの心中を知ってか知らずか、セルバンテスは何処か照れ臭そうに笑った。それを見たの頬が赤く染まったのは、その笑顔が滅多に見せないような類のものだったからだ。 さて、とセルバンテスが言う。 「キスをしてもよろしいかね、セニョリータ?」 仰々しい口上を述べてから、ウインクを一つ。よりも随分年上のはずなのだが、こういう少年らしい仕草だとかがには可愛く思えて仕方が無い。 「どうぞ、お気の済むように」 笑いを噛み殺しながらはそう言った。 今日何度目かのキスは、何故か林檎の味がした。 |