彼女はまだまだ子供なのだ。男という生き物をまるでわかっていない。だからこうやって自分を誘う。その仕草が、言葉が、どのように見えるかも知らずに。嗚呼、なんて無知で幼くて愚かで愛らしいことか! こう言って自分は彼女にキスをした。 「さんが悪いんですからね」 そう言って彼は私にキスをした。 パラケルススさんはいつだって私のことを子供扱いして、仕方ないなぁっていう風に優しく笑って頭を撫でてくれた。その笑顔がとても好きで、その手がとても気持ち良くて。結局いつも私は何も出来ずにただそれに甘えるだけ。それが悔しかった。だけど。今私の口を塞ぐ彼の唇の感触というのは私にとってはあまりに唐突で、そしてそれはとても熱くて、そう、まるで炎に巻き込まれているような。 こんなんじゃあ息もできない! そう思った途端、それが伝わったのかどうかはわからないけれど、パラケルススさんは静かに私から離れた。不思議なことに、その熱が去っていくことはなんだかとても寂しいことのようにも思えた。さっきまでは苦しいとすら感じていたはずなのに。 ぱん、という音。パラケルススさんが手を叩いた音だ。それはまるで魔法を解く合図のように私の耳に響いた。 「さ、今日はもう遅いですしお帰んなさい」 「パラケルススさん、あの、」 「おやすみなさい」 穏やかだけれど、有無を言わせない言葉。答えを求めてパラケルススさんをじっと見つめたけれど、その瞳は何も語ってはくれなかった。嗚呼、どうして私はこの人の前ではこんなにも無力なのか。言いたいことは山ほどあったのに、結局私はおやすみなさいとしか言えずに部屋を去った。 |