仕事の後には甘い夢を
「甘いものが食べたい」
「甘えるな」
 任務終了後。が静かに、しかしはっきりと言い放った言葉を、黄信は表情も変えずにあっさりと切り捨てた。
「ちょっと黄信さん!人のささやかな希望をそんな一言でぶった切らなくても」
「報告を終えるまで任務は終わらん」
「帰るまでが遠足ですってことですか」
「よくわからんぞ」
 憮然と言い放つ黄信相手に、は解説者さながらに説明する。
「黄信さんの頭が固すぎるってことです」
「俺にはお前の頭が緩すぎると思えるがな」
「厳しいなぁ。何も遊園地で遊びたいって言ってる訳じゃないんですよ?」
 拗ねたように言うを見て、黄信は呆れ顔を作った。
「阿呆か貴様」
「阿呆とは何ですか、これでも立派なエキスパートなんですよ!」
 腰に手を当て胸をはるの額を、黄信は刀の柄で小突く。
「立派なエキスパートを名乗るならば少しは自重せんか」
「…わかりました」
 は小突かれた額を押さえながら、不承不承頷いた。が、それだけで引き下がるではない。
「その代わり、報告を終えたらパフェ食べに行くのに付き合ってもらいますからね」
 可愛らしい店構え。甘ったるい香り。テーブルを挟んで向かい合うと黄信。運ばれてくるパフェ。「黄信さん、はい、あーん」と黄信の口へとパフェを運ぶの姿。
 そんなイメージ映像を見せられた黄信は、軽い頭痛を覚えた。
「何故そうなる!」
「ささやかな希望だって言ったでしょう?」
 そう言うの瞳があまりに輝いているものだから、思わず黄信は言葉に詰まる。自分らしくないと苦々しく思いながらも、否定の言葉が出てこないのだ。
「ね、いいでしょう?」
 この娘を相手にすると、どうにも調子が狂ってしまうらしい。黄信は諦めたようにため息を一つ吐いた。
「…せめて団子にしてくれ」
 その言葉を聞いてが満面の笑みを浮かべたのは言うまでもない。

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