王都にある長くて広い廊下には、足音がよく響いた。 ヴィラルがその廊下を歩いていると、後ろからぺたぺたという音。忠実についてくるそれは、ヴィラルが足を止めると一緒に止んだ。再び歩き出すとそれはまた、ぺたぺたぺたぺた。しばらくそれを繰り返した後、とうとうヴィラルが振り返ると、そこにはにこにこと楽しそうに笑う娘が立っていた。白いワンピースに裸足という至ってシンプルな装いをしていたが、だらりと垂れた手には不釣合いな大きな刀が握られていた。 「か」 ため息と共にその名を吐き出すと、はワンピースの裾を掴んでどこぞのお嬢様のように一礼した。 「こんにちは、ヴィラル」 「…こんにちは」 不承不承といった風にヴィラルが言葉を返してやると、は嬉しそうにくすくすと笑った。ヴィラルは常々この能天気な娘に文句の一つでも言ってやろうかと思っているのだが、この毒気の無い笑顔を見るとどうにもその気が失せてしまうのだった。 「何の用だ?」 「用?用が無いのに来るのはだめ?」 「駄目という訳でもないが、こんな風に後をつけられるのは…正直鬱陶しい」 ぺたぺたという足音を響かせながら無言で人の背中を追いかけてくるというのはのは悪趣味ではないか、とヴィラルは言う。 「でもね、ヴィラル。私はちゃんと貴方に用があるよ」 「用があるならさっさと言えばいいものを」 苛立ちというよりはむしろ呆れをみせるヴィラルに対して、 「私はね、ヴィラルが好きだから一緒にいたいんだ」 はこれでもかと言うほど満面の笑みを浮かべてみせた。卑怯だ、と思いながらもヴィラルは自身の頬に赤みが差すのを止められない。 「………そういうのは用とは言わないだろう」 この日以来、ぺたぺたという足音はヴィラルのすぐ隣から聞こえてくるようになった。 |