押し付けるように口付けをされたかと思うと、そのまま貪るように唇を何度も吸われた。 まるで獣だ、とは思う。 世間一般で言う愛の行為と言うやつに対して失礼なのかもしれないが、更木の方でもそんな事を考えているはずもないのでその辺は気にしないでおこうとは思うのだ。 獣。ある意味誰にでも当てはまるのかもしれない。性行為なんていうのは人間の根本的な欲のうちの一つである。人間とほぼ代わらない営みを保つ死神にとっても、それは同様で。理性だとかを全部忘れて情事に及ぶなんてものは、言ってしまえば獣に戻るのと同じ事だ。生と言う本能に従うのだから。 は自分自身の持つ見解を崇拝している訳でも蔑んでいる訳でもない。ただ、それとは関係無しに思うのだ。そのままこの獣に骨まで全部食われてしまうのではないか、と。言葉通り食われる所を想像してしまうのだ。更木の血となり肉となる所を。がぶりがぶりと。おいしく食べてくれたら嬉しいなぁ、などと呑気な事をぼんやりと考える事さえある。 しかし更木はこれでも死神だし、死神は死神を食わない。当たり前だ。死神殺しは斬首に匹敵する、第一そんなものは狂気の沙汰である。 確かに更木は狂っている。例えばこの裂けそうな程に吊り上がる口だとか、可笑しな髪型だとか、体中についた生々しい傷だとか。それらは全て更木のそういう面をわかりやすく具現化したものなのかもしれない。 それでも更木は死神を食わない。の事も食わない。当然の如く。 決して優しいとは言えないが、それでも快楽を与えてくる愛撫を繰り返されるうちに甘い声が出てきた。はこの瞬間が一番嫌いだった。大げさに言ってしまえば、理性が生きていながら体が反応してしまうこの時以上に屈辱的な事は無い。そうやって声を押し殺していると、今度は更木が耳元で囁くのだ。我慢するんじゃねぇ、と。嫌だ、と言おうと口を開いた途端、更木に体を強く吸われて言葉の代わりに嬌声が上がった。悔しく思って睨みあげると、更木の口が大きく吊り上がった。笑っている。戦いの時程ではないけれど。でも、とても楽しそうに。 なんだか無性に泣きたくなって瞼を閉じると、その上に唇を落とされた。たまらなくなって、言葉が零れた。 「全部食べてしまって下さい」 と。 その台詞を言ったのは、果たして理性だったろうか本能だったろうか。 更木は頷いたけれど、言葉通りにを食う事はきっと無いのだ。 どうして獣に恋なんか。 流れた涙は全て更木の所為にしておいた。 |