「抱いて」 話がある、と言われて聞いてみれば。 このという娘のことをベルナールは好いている。が、こうも簡潔に求められて素直に頷く訳にもいくまい。平素から突拍子も無いことを仕出かす娘ではあったが、これにはベルナールも閉口した。 驚きと呆れと、そして幾ばくかの喜びを一気に背負わされた男は、顎に手をやり思案する。 「いいから、抱いて」 ねだるように腕を絡めてくるの肩を押し留め、ベルナールはその理由を尋ねた。 「急にどうしたというのだ」 「…ベルナール様、”情欲”はやっぱり嫌い?」 艶やかな唇が弧を描きながら紡ぎ出した言葉に、ベルナールは眉根を寄せた。”情欲”と聞けば、それを司る男の姿を思い出さずにはいられない。はそれを知りながら、ベルナールの腕に自身の白い腕を絡ませて言うのだ。 「怒った?でも気になるの。私を抱くことは貴方にとって大罪になるのかなって」 白い指がベルナールの頬から首筋にかけてゆるりゆるりと撫でる。その癖の瞳は好奇心できらきらと輝いていて、まるで子供のようだった。 だから女は怖いのだ、とベルナールは心の中で呟く。 「ね、ベルナール様ったら」 答えをくれないベルナールに、はじれったさを覚えたらしい。骨ばった男の顔を両手で包み込むと、少しばかり乱暴にぐいと引き寄せた。そのままキスでもしそうな勢いだったが、の大きな瞳がそれを許さない。ベルナールは瞳を閉じて静かに息を吐いた。 「お前には敵わんな、」 再び開かれたベルナールの瞳の奥に、は悪戯めいた光を見た気がした。 |