蝶になる夢

 馬鹿げた夢を見た。
 蝶になる夢だ。
 これで自由に飛んで行ける、とはしゃいでいた。

 本当に馬鹿な夢を見た。



 それを告げると、パラケルススは苦笑した。
さんは、自由になりたい訳ですか」
「わからない」
 淡々とは言葉を紡ぐ。実際、には自分自身の望みすらわからなかった。そんなを見て、パラケルススは哀れむと同時に愛しさを覚えた。
「人は誰しも自由を求めるものですがねぇ」
「貴方も自由を求めているの?」
「ま、さんになら束縛されてもいいと思ってますけどね」
 そう言ってパラケルススはからからと笑う。は顔をしかめた。この男はこうやってすぐ物事をはぐらかすのだ。
「貴方に聞いた私が馬鹿だった」
「これは手厳しい」
 拗ねるようにそっぽを向くを見て、パラケルススはおどけたように自身の額をぴしりと叩いた。
「でもね、さん。蜘蛛の巣にひっかかっちゃ蝶も終わりですよ」
「…じゃあ、その時は貴方が先に私を捕まえて」
 パラケルススはてっきり否定されると思っていたらしい。その眼を大きく見開いた。
「よろしいので?」
 問われたはこくりと頷き、パラケルススをじっと見た。曇りの無い真っ直ぐすぎる眼差しだった。それを受けたパラケルススはゆっくりと息を吐くと、静かに笑った。
「わかりました。そうだな、もし捕まえたら標本にして飾っておきましょうか。それなら貴方の美しさをずっと閉じ込めておける。いい案でしょ?」
 最後にウインクを一つ。パラケルススらしい、とは笑った。

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