声を上げる暇も無かった。 出会い頭にいきなりのキス。の背中にコンクリートの壁が無ければ、何処までも沈みこんで行きそうなキスだった。 レッドは飢えた獣のように何度もの唇を吸った。そのうち舌をねじ込んでの口内を執拗に舐め回し始めた。鉄の味。懲りずにまた血を舐めてきたのか、とは顔をしかめた。 ようやくレッドが舌を引き抜く。真っ赤な舌に、つうと伝う唾液の糸。 お互い息を吐き、酸素を求めて息を吸う。冷たい空気が火照った身体には心地良い。それにしてもレッドの息が乱れているとは珍しい。にはそれがいやらしい類のものに思えた。 「四人殺して来た」 囁くようにレッドが言う。とっておきの秘密を話す子供のようだった。 と、レッドの手がするりとの胸元へと滑り込む。 「此処だ」 レッドが示すのは、どくん、どくんという鼓動。つまりは心臓である。 「此処に四度」 「刃を突き立てたの?」 「あぁ」 なぞる様にゆっくりと触れていたレッドだったが、耐えかねたように乱暴にの服を肌蹴させた。薄暗い闇の中に浮かび上がった白い肌に、レッドは唇を落とす。 「あっ」 思わず声を漏らすを見て、レッドが悪戯めいた笑みを浮かべた。 「感じているのか」 「うるさい」 熱に潤んだが、か細い声で鳴いた。レッドにはそれが楽しくてたまらない。 「私は感じるぞ。お前の柔らかな肉、熱い体温、心地良い心臓のリズム」 何度も唇を寄せるうちにそれだけでは物足りなくなったのか、レッドは赤い舌での白い肌を丹念に舐め始めた。 は甘い刺激の中で、必死に言葉を紡ぎ出す。 「私のことも、殺すの?」 「私が、お前を?まさか!」 レッドは高らかに笑うと、の瞳を真っ直ぐと見据えた。 「勿体無くてまだ殺せそうにない」 男の持つ狂おしい程の熱い眼差しは、女の感じていたコンクリートの冷たさをいとも簡単に消し去ってしまった。 |