日溜りの恋

 昼間からお酒なんて、と腰に手を当てては怒る。それなのに戴宗は酒を片手にからからと笑うのだ。
「戴宗さん、お酒ばっか飲んでると体に良くないですよ」
「そんな事ねぇさ。飲めば飲むほど強くなる、ってな」
「それは酔拳だとかの話でしょう。私が言ってるのは健康上の問題であって、」
「応用ってやつだ」
「そういうの屁理屈って言うんですよ!」
「屁理屈は嫌いか?」
 真剣な顔と声。はこういう時の戴宗が苦手だ。自分ではどうしようもないくらい胸の音がうるさくなるし、顔が赤くなるのだ。とりあえず落ち着かねば、とは目を閉じて深呼吸する。それからきっぱりと言い放つ。
「嫌いです」
 我ながら上手く言えた、と思う。戴宗の反応を伺おうと片目を開けると、そこには困ったように笑う戴宗の姿。間違った事は言っていないはず、と思いつつもは小さく芽生えた罪悪感にうろたえた。そんなにさらなる追い討ちとばかりに、
「参ったな、お前には好かれておきたいんだが」
 という戴宗のため息交じりの呟き。
「そ、そうやって機嫌をとろうとしたって駄目です!」
「駄目か?」
「駄目です!」
 真っ赤になって叫ぶを見て、戴宗はわざとらしいため息を吐く。
「酒も駄目、可愛いのご機嫌取りも駄目。いやはや全く容赦が無いな」
 そう言って酒をもう一口。
「………!」
 いよいよ湯気が出そうなくらい顔に熱を持ったは、何を言えばいいのか、何を言いたいのかもわからなくなってしまった。ただ、とにかく戴宗から酒を遠ざけねばという意識だけは働いたらしい。力任せに酒の入った瓢箪をひったくると、その場から逃げるように駆けて行った。
 その後姿を見送りながら、戴宗は楽しそうにくつくつと笑う。
「まだまだガキだねぇ」
 無意識のうちに瓢箪に手をやろうとしてから、に奪われたことを思い出す。
「さて、返してもらいに行きますか」
 今度はどうからかってやろう。そう考えると、戴宗の顔には自然と笑みが広がるのだった。

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