注意 * 微エロ


























闇に食われた葡萄

 その日は土産に葡萄を買って行った。相手は少女だった。空には雲一つ無い夜で、月だけがその舞台を支配していた。
「また来てくれたのね、ジョヴァンニ!」
「お前のためならば、いつでも」
 は年のわりに幼かった。それは葡萄を受け取ってはしゃいでいる姿によく現れていた。ジョヴァンニはそれを心地よく思う。
 マリア様に恋をした時に似ているかもしれない。のこういった純粋な心は、年を取ろうともその美しい輝きを失うことはないのだろう。理由も何もなかったが、ともかくジョヴァンニはそう思った。
「ありがとう」
 花のような笑顔を浮かべながら、は古びたベッドの上に踊りこむように身を投げた。
 以前、はこのベッドを船だと言った。言われてみれば、この部屋に一つしかない窓から差し込む月の光はベッドだけを照らしていた。他は闇に沈み込んでしまうから、がそう思いつくのも不思議はないように感じた。狭いこの空間の中で、にとってベッドは海の中に浮かぶ唯一浮かぶ船だった。夢の中ではいつも広い広い海原をさ迷っていて、その海は不安定であったり穏やかであったり、いつも姿を変えるのだという。そう話すの瞳は、星のようにきらきらと輝いていた。
 葡萄を手にしたの瞳には、変わらずその輝きが宿っていた。ジョヴァンニはそれに安心にも似た満足を覚える。
「いただきます」
 ジョヴァンニに笑いかけながら、は葡萄の実を容赦なく引き離した。一瞬、蟻を踏み潰す幼子を思い出す。それから口の中へ指ごと実を入れた。唇が波を打ち、指先が実を失くした皮を引きずり出す。
「おいしい」
 が微笑んだ。ジョヴァンニの心臓がどくんと大きく動いた。息が詰まる。一瞬、憎しみにも似た嫌悪感が肌をざわつかせた。の美しさは清らかで純粋なものだ。娼婦の持つ美しさなど裏切りに等しい。
 悲しい事に、の微笑みはジョヴァンニの目には艶然たるものにしか映らなかった。月の光に照らされたその柔らかな髪も、大きな瞳も、艶やかな唇も、細やかな肌も、美しい線を描く体も、全てが色情的な存在と化していた。
 今、少女が乗っているものは船ではなかった。

 ジョヴァンニが古びたベッドに片膝を乗せると、ぎしりと大きな音を立てた。恐らく定員オーバーなのだろう。けれどジョヴァンニは構わず体を進めた。

 ジョヴァンニの行為には初め緊張と戸惑いに震えていたが、やがてその小さな唇からは悦びの吐息が零れ始めた。葡萄は既にの手から放れ、闇に食われていた。そのうちジョヴァンニが欲望を全て吐き出してしまうと、しばらくぼんやりとしていたはそのまま穏やかな寝息を立て始めた。
 眠るは美しかった。けれどジョヴァンニには、このが清らかな少女なのか、艶やかな女なのか、判断がつかなかった。
 どうか夢の中では船で海原を旅していますように。
 ジョヴァンニは祈るように娘の額に口付けた。

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