甘噛み

「噛んでいい?」
 返事を待たずに雲雀は の首筋を噛んだ。それは静かで柔らかで甘いものだったので、白い肌に跡は残らなかった。けれど熱は電気のように伝わった。 の身体を小さく震わせた原因が己にあるのを知っている雲雀は、微かに口元を緩めた。
「私は貴方と群れていることにはならないの?」
「ならないね、需要と供給の関係だから」
 どっちが需要でどっちが供給なのか、 は聞けない。 は雲雀に恋をしていて、恋する乙女というのは時に酷く弱い生き物になる。
 だから聞けない。

 嗚呼、もういっそ貴方の牙で噛み殺してよ。

 聞けない代わりに、 はそんな言葉を吐き出した。その言葉は囁くようなものだったかもしれないし、叫んだものだったかもしれない。 はそれを覚えていない。ただ、懇願した、という日本語にふさわしいようなものだったのは確かだ。
「珍しいね、 が我が侭を言うなんて」
 雲雀はどことなく楽しげにそう言ったかと思うと、命令されるのは嫌いだよと眉根を寄せた。
「貴方の方がよっぽど我が侭」
 まるで子供のようと が続ける前に、雲雀はうるさいよと言って冷たい唇で の口を塞いだ。

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