殺人鬼に愛を叫ぶ

 好きで好きでたまらないのです!

 これぞ青春の一ページ。午後3時10分。わざわざ手紙を書いて公園へ相手を呼び出すという乙女の正統手段を用いた上で、は真面目も真面目、今までに無いくらいそりゃもう一生分の真面目を費やして殺人鬼である零崎人識に自分の思いをぶちまけた。
 そして、
「おまえも馬鹿だよなぁ」
 青春の一ページ目は零崎の失笑でもって綴られた。
「だよねぇ」
 自分でも薄々そう感じていたは、思わず快い相槌を打った。打ってから、自分のこういう所がまた馬鹿なのだろうかと思う。
「俺が言うのも何だが、おまえの周りには他にマシな奴はいないのか?」
「いまくり!」
「そっちにしとけ」
「それができれば苦労しないんだよ」
「要領悪いな」
「本当にね」
 が演技じみたため息を吐くと、零崎がさもおかしそうに笑った。そう、これだ。この笑顔がもう、好きで、好きで。は胸に熱さを感じた。これは決して午後3時12分の夏の陽射しのせいでは無い。
「そんな要領の悪い私は零崎人識が大好きなのです!」
 導火線に火がついていた。酔ってもいないのに高調しきった思いは留まることを知らず、半ばやけくそ気味に聞こえる言葉が零崎に向かって飛んでいった。
「おまえなぁ…本気で言ってんのか」
 かりかりと頭をかいて零崎が言う。
「本気に決まってるでしょう。冗談で殺人鬼に告白できますか、否、私はできない!」
 だって命が惜しいもの、と付け加えるとそれが気に入ったらしく零崎は傑作だ、と言って。嗚呼またそうやって楽しそうに笑うのだから。
「俺はたくさん人殺してる訳だけどさ、そこはほら、一応人間だから好きな女には不幸になって欲しくない訳よ」
 好きな、女。愛して止まない笑顔から零れ落ちた言葉は、ずしりずしりとを沈ませていく。
「じゃあ不幸になってもいい私を愛してくれればいいんじゃない」
 我ながら随分投げやりな台詞だ、とは思う。それでも止められないものは止められないのだ。零崎人識への想いというのはなんて厄介なんだろう。
、おまえさ、たまに人の話をよく聞いてないだろう」
「いいえ、一言一句漏らさず聞きましたとも」
「俺の好きな女って、自分のことだってわかってんのか?」
「そりゃわかって…って、え!?何!?人識さんあなた何言っちゃってんの!?」
「落ち着け」
 わりと容赦なく零崎はの頭を平手で叩いた。
「痛いよ人識!仮にも好きな子に何さらしてんの!」
「…まぁ理解はできたみたいだな。ま、そういう訳で俺も複雑なのよ」
「どこが複雑なの?私があなたを好きで、あなたは私を好き。問題なんて何処にも無いでしょう!」
 が叫ぶと、タイミングを見計らったように公園の鳩達がばたばたと飛んだ。

 ほら、世界はこんなにも私たちを祝福している!

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