「ジョヴァンニ様、私を斬って下さいませんか?」 「気でも狂ったか、」 何を冗談を、とジョヴァンニは笑って流そうとした。けれどは本気だったらしい。真剣な瞳を向けたまま、再び同じ問いを繰り返した。 私を斬って下さい。 こうくれば、ジョヴァンニも笑って流す訳にはいかない。 「、俺は大事なお前に傷をつける気はないぞ」 「どうしても斬って下さらないのですね」 「お前を失いたくはないのだよ。許してくれるな?」 ジョヴァンニは悲しげに目を伏せるを抱き寄せ、髪の毛に唇を落とす。ジョヴァンニはこの柔らかな温もりを失いたくはなかった。無意識のうちに、いつもよりも力を込めてその小さな身体を抱きしめる。 「ごめんなさい…私は、ただ、」 少しだけ戸惑ってから、は言葉を紡いだ。 「もし斬って下さったのなら、死ぬまで貴方から離れなくて済むと思ったのです」 一瞬だけ訪れた静寂をジョヴァンニの笑い声が壊す。楽しそうな、嬉しそうな笑い声だった。 「、!お前はなんて可愛らしいのだろうな!」 全く最高だ、とジョヴァンニは笑う。笑われたはまさかこんな風にはしゃがれるとは予想していなかったので、頬を染めて何度も目を瞬かせた。 ジョヴァンニの能力は、恋人たち<リ・アマンティ>と呼ばれるものである。彼に傷をつけられた者は、彼から離れれば離れる程傷が深まるのだ。 そしてそんな男に傷をつけられたいのだ、とは言う。だからジョヴァンニは楽しくて嬉しくてどうしようもない。 「」 大きな手がの頬を包んだ。の瞳に、穏やかな笑みを浮べたジョヴァンニの顔が映る。 「そんな事をしなくとも、俺はお前から離れる気など無いのだよ」 だから俺に斬れなどと言ってくれるな、と。 が困ったように笑いながら頷くと、ジョヴァンニは満足げな笑みを浮かべてそのままにキスをした。 |