| 「私が死んだら海に流してくれる?」 人を連れ出して浜辺で散々はしゃいだ挙句、突然そんな例え話。長曾我部はそれが気に食わない。死んだら、なんて例え話は好きではない。 「俺は葬儀屋じゃねぇぞ」 「知ってる。でもね、私が死んだら海に流して欲しいの」 長曾我部は答えずに、なんとなしに拾い上げた貝殻を海に向かって投げた。穏やかな水面であったとはいえ、小さな貝殻はすぐに波にさらわれ海に消えた。 「貝殻は流すのに私は流せないって言うの」 「貝殻と一緒にすんな」 「元親のケチ」 砂を蹴飛ばすを見て、長曾我部は呆れたようにため息をつく。 「何も流してやらんとは言ってねぇよ、ただ、な」 「何?」 の生まれ育った地は此処で。つまり此処はにとっての郷土で。 長曾我部は攻めて来た兵達を海に流す。本人は何も語らないが、おそらくは郷土へ返してやろうという想いからなのだろう。 だから長曾我部にはの意図するものがわからない。 「あのね、元親。生き物は海から生まれたんだって」 「本当かよ」 「本当だよ」 穏やかだったけれど、の顔には妙な自信に満ち溢れていた。長曾我部が思わず閉口してしまうと、は優しく笑った。 「だから、死んだら海へ還りたいと思ったの」 始まりと終わりは同じ所がいい、とは言った。 「そうか」 「ね、お願いだよ」 「俺はお前が魚に食われて死ぬのを手伝えばいいんだろ」 「ちょっと元親、それは嫌。死んでから食べられるならいいけど」 「わかったわかった」 どうにもこの娘には勝てないようにできているらしい。長曾我部が苦笑しながらの頭を撫でてやると、は気持ち良さそうに目を閉じた。 |