「私がここにいていい理由はあるのかな」 「何を突然」 「私が銀貨じゃないのは貴方が一番よく知っているでしょう?」 「あぁ、お前は銀貨ではない。ただの異能者だ」 ただの異能者。ただの、などと蛇と呼ばれるこの男は言う。しかし異能者はそれだけで奇異な存在であり、このように軽く流されるようなものではない。何だか釈然としないは、多少の反抗心を示す。 「異端審問官がただの異能者を部屋に引っ張り込んでいいんですかあ?」 「お前からこちらを訪ねてきたのだろう」 「それは、そうだけど…」 冷静に指摘され、の声は段々と小さくなっていく。 「そもそも何故急にそんなことを?」 ベルナールの言葉が僅かに和らいだ。しかし、は膝を抱えて黙ったままだ。 「、言わねば私にはわからない」 人の思考を読む男。けれど、の心を読む事は出来なかった。の能力故に、だ。外界から自己を遮断する力。物質的にも精神的にも、はこの世の何もかもと自己との間に壁を作る力を持っていた。 故にベルナールにとっては全てが未知であったので、から話すのを待つ事しかできなかった。 「だって、怖い」 ぽつり、とは言葉を零した。 「私は異能者だけど、皆と全然違うんだもの。銀貨でもなければ、皆の役に立つことすらできない。予言に何の関係もない、戦場では突っ立っている事くらいしかできない。ねぇ、役立たずでしょう」 は泣かなかった。泣く強さを持っていなかったから。小さな体を自分自身の小さな腕できつく抱きしめることしか、心を守る術を知らなかった。 「」 ベルナールの骨ばった手が、の小さな肩に置かれる。 「私がお前を拾ったのは何故だと思う」 わからない、は答えを知ろうと自分よりも大きなベルナールを真っ直ぐ見つめた。 「お前は予言に関係なく、私の意思で拾った。私の意思で、だ」 「…でも」 「それだけでは満足できぬか」 不安げな様子を隠しきれなかったは、その言葉を聞いて勢いよく頭を振った。 「お前がここにいたいのならば、いれば良い」 理由などそれだけで十分だろう、と。ベルナールの表情が滅多に他人に見せないとても穏やかなものだったので、は照れたように笑って頷いた。 |