其れは果たして馬鹿か否か

 海の向こうから来た鳥は、虹を思わせた。

「馬鹿な鳥」
 が呟いた言葉は嘲るようにも慈しむようにも聞こえた。静かな部屋に、ばさりという羽音が響く。曰く馬鹿な鳥は、虹色の羽を広げて口ばしで毛を繕ったかと思うと、再び羽を閉じて精巧なからくり人形のようにくるくると首を動かしていた。
「いい鳥じゃねぇか。喋れる鳥なんぞ滅多にいねぇ」
「だから。この子、喋るんだよ」
 一瞬の間。
「お前こそ馬鹿か」
 長曾我部が呆れたようにため息をついた。は首をかしげる。
「そうなの?」
「お前はそれを俺に聞くのか」
 捕らえどころの無いを前に、長曾我部は苦笑するしかない。
「でもね、元親」
 突然、の声に熱が入る。
「他の鳥は喋らないでしょう。それなのにこの子は喋る。この子はすごくて、おかしくて、異なっていて、」
 そこで言葉がぷつりと切れた。
?」
 急に黙り込んだをいぶかしむように長曾我部はその顔を覗き込むと、そこには戸惑いがあった。
「元親、だから、つまり、」
 ここまで来てはどう表現していいのか、焦燥感に駆られたように必死で言葉を探していた。
「あー、もしかしてあれか?馬鹿と天才は紙一重ってやつ」
 何気なく長曾我部が言った途端、今まで忙しなく動いていたの瞳がぴたりと止まる。長曾我部は、そこに自身の姿が揺らぎ無く映し出されているのを見た。
「元親、天才?」
 ぱっとの瞳が輝いたので、長曾我部はたまらずその小さな体を抱き寄せた。元親、と驚いたように小さな声。ふわりとの髪が長曾我部の首筋をくすぐる。
「お前は馬鹿か」
 長曾我部の柔らかな笑みは、抱きしめられているには見えない。けれど柔らかな声は確かにに届いていた。
「そうなの?」
「紙一重だからな」
「よくわからない」
「それがお前だよ、
 ばさり、と。存在を思い出させるかのように大きな羽音が耳に届いた。長曾我部がそちらに視線をやると、ばちりと目が合った。黒いつぶらな瞳は、何も考えていないようにも、深い知性を備えているようにも見えた。
 俺も馬鹿の一人か。飽きもせずにくるくると首を動かす鳥を見ながら、長曾我部は楽しげに笑った。

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