「なんだ、疲れて寝ちまったのかい」
 戴宋が見下ろした視線の先には、仲良く寄り添って寝息を立てている鉄牛とがいた。


‐ きょうだい ‐


 鉄牛ととで、しばらく手合わせすると聞いていたのだが、どうにも帰りが遅い。心配で様子を見に来た戴宋が目にしたのが、先の光景である。それにしても、晴天の暖かい日とはいえごつごつとした岩を背に寝ている所を見ると、よほど疲れたのだろう。
 さて。
 戴宋としては鉄牛の巨体を軽々と持ち上げることも出来るが、寝ている二人を運ぶとなると話は別だ。手荒な運び方になるくらいなら起こしてやった方が親切だろう。しかし、あまりに幸せそうに眠っているものだから、それも気がひけた。
「どうしたもんかねぇ」
 戴宋がしゃがみ込んで二人の顔を交互に見つめる。と、の口元が動いた。
「戴宋さん…」
 決して明瞭ではないが、確かに戴宋の名を口にした。呼ばれた戴宋はなんだなんだと顔を近付ける。
「戴宋さんが一緒だと、嬉しいです」
 そう言ったきり、はまた寝息を立て始めた。間近で見ていた戴宋ははっきりと理解する。今のは寝言である。しかし。
「嬉しいこと言ってくれるねぇ」
 いつものからかうような口調ではあったが、戴宋は口元がにやけるのを押さえきれずにいた。口元を手で覆いはしたものの、不覚にも頬は熱を帯びていた。いつも飄々としているこの男が照れるというのは珍しい。二人が寝ていて本当に良かったと戴宋は思う。
 と、につられたのか、隣の鉄牛がむにゃむにゃと言葉にならない声を発した。
「お、鉄牛、お前さんもか?」
「…兄貴ぃ、俺もう食えねぇよぉ」
「相変わらずだな、鉄牛よ」
 鉄牛の寝言に呆れながらも、戴宋はこの弟分と妹分が可愛くて仕方がない。

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