自分はあの娘に何かしただろうか。スティーヴ・ロジャースは困惑していた。 初めて出会った時は、可愛らしい子だな、と純粋にそう思った。 それ以降、さり気ない気遣いが染み付いているらしいは、人の良いロジャースが気に病むことのない程度に色々世話を焼いてくれている。ロジャースにはそれが大変ありがたいし、だから、快くお礼を言いたい。 それなのに。 ロジャースから声をかけると、どうも反応がよろしくない。 に現れる症状は、主に二点。目を逸らす、極端に口数が減る、だ。かと思えば、ロジャースがを見ていない時には、じいっと彼を見つめてくるのである。残念なことに、その視線の意図するところは彼には全くわからない。 勿論のこのような態度が皆に対してならば、ロジャースとて納得する。 ところが、そうではないのである。 部屋の隅でコールソンから渡されていた書類に目を通しているふりをしながら、ロジャースの意識は書類からは遠く、彼から離れた所で挨拶を交わす二人へと集中していた。 「やぁ、。今日は一段と美しいようだが、私をデートにでも誘うつもりかい?」 「御機嫌よう、スタークさん。お誘いしたい所ですが、長官とデートの先約が」 「また新しい基地の視察か?君はまるで仕事に恋をしているようだな」 「えぇ、仕事は裏切らないし、とても魅力的ですからね」 恐らく自分と同時期に出会ったであろうトニー・スタークとは、今みたいに礼儀正しさを忘れない中でも冗談を混じえて会話を交わしていたりするのを、よく見かける。女好きで有名なスターク個人に限って言えば、ロジャース自身と比べたところで何の参考にもならないだろうが、が他の仲間達とも同様に接しているのを知っているロジャースは、正直、落ち込まざるを得ない。 「ちょっと、大丈夫?」 と、突然ロジャースに声がかかる。美しい赤毛がふわりと揺れた。ナターシャ・ロマノフだ。 「大丈夫って、何がだい?」 「落ち込みすぎ」 平静を装ってみせたロジャースに、ロマノフの切れ味の良い言葉がぐさりと刺さる。わかりやすいんだから、と苦笑するロマノフの表情は、言葉のわりに随分優しかったのでロジャースは言いかけた文句を飲み込んだ。代わりに、素直に自身の悩みを伝える。 「…彼女の気に触るようなこと、何かしたかと思って」 「貴方が?に?」 ロマノフが驚いたよう長い睫を瞬かせた。それから不思議な生き物を見るかのような目で、まじまじとロジャースを見つめた。どことなく面白がっている節が見え始めたので、ロジャースは何だか良い気がしない。 「他に誰がいるって言うんだい」 思わず口を尖らせると、笑いを堪え切れなかったらしいロマノフが吹き出した。 「馬鹿ねぇ」 「ば、馬鹿はないだろう?」 さらに反論しようとしたロジャースを制するように、ロマノフが素早く耳打ちした。 「あの子、小さな頃からキャプテン・アメリカのファンなんですって」 |