の知るパラケルススはいつもにこにこと笑っていた。時折見せる真面目な表情にははどきりとさせられたものだったが、それはあくまで乙女心を刺激する範囲のものでしかなくて。 しかし、そんなパラケルススが笑顔を捨て、怒りを込めてを睨みつけていた。 「腹を立てずにはいられませんて」 「す、すみません…で、でも、そんな怒らなくても」 を―――いや、正確には、の腕を―――睨みつけていたパラケルススは、ため息を吐いた。 「さんの考えなしの正義感にも、困ったものだ」 「だ、だって…!」 「実力に伴う行動をして下さいよ」 いつになく辛辣なパラケルススの言葉に、は唇を噛む よくある話だ。悪漢に絡まれている少女を救おうと勇んだ結果、腕に軽い怪我を負った。それだけならともかく、結局パラケルススの助力を得て解決に至った為、は何も言い返せないのである。 「…まぁ、そこが貴方のいい所なんですけどねぇ」 「え?」 言葉の意味を質す前に、パラケルススの手がの腕に伸びた。が力強く引き寄せられた、と思った瞬間、パラケルススの舌が、その傷跡を舐め上げていた。 「ぱ、パラケルススさん!?」 「消毒ですよ。我慢して下さい」 が拒否する間もなく、再び赤い舌が傷跡を襲う。痛みよりも予想外の熱に、は思わず声を漏らす。 「あ、熱い」 「舌も熱持ってますからねぇ」 のんびりと語る声がパラケルススらしいと言えばらしかったけれど、なおも与えてくる熱はが今まで経験した事の無い類のもので。なんだか、むず痒い。 「あ、あの、パラケルススさん」 「はい?」 「あの、その…」 もうその辺で良いのではないか、と言うことを伝えようとしているのだが、の口は言葉を見つけられずにいた。そもそも腕を振り払えば良いだけの話なのだが、魔法をかけられたように身動きすら取れなかった。 「何です?」 「あの、な、なんか…い、いやらしい、です!」 かろうじて出てきた言葉。言ってしまってから、一気に恥ずかしさがこみ上げてきたのか、の頬は瞬時に赤く染まった。そんなを見て、一瞬パラケルススは酷く驚いた顔をしたが、次の瞬間にはからかい混じりの笑みが浮かんだ。 「もしかして、感じちゃったんですか?」 「か、感…!?」 「さんてばやらしいなぁ」 「な、な、何言ってるんですか…!」 「何って、見たままの感想を」 「…パラケルススさんの馬鹿ぁ!!!!!」 どすっ、という鈍い音。の拳が、見事にパラケルススの鳩尾を突いていた。呪縛から解けたの行動は素早く、その勢いでばたばたと部屋を飛び出して行ってしまったのは、言うまでもない。 「なかなかいいパンチをお持ちで…」 殴られた箇所を抑えながら、パラケルススは苦笑する。 「ちょっと悪戯しすぎましかたね」 まぁ、心配料ってことで、罰は当たらんでしょう。パラケルススは鳩尾を撫でながら、そう呟いた。 |